「開業したら少し楽になれる」と考えて開業する医師は少なくありません。勤務医時代の当直・オンコール・病棟業務から解放されることへの期待。
それは間違いではありません。ただ、「忙しくなくなる」とも少し違います。
開業医の忙しさは、勤務医とは種類が違います。何がどう違うのか。データと実態を整理します。
勤務医の「忙しさ」の実態
まず、比較の起点として勤務医の現実を確認します。
厚生労働省の2019年調査によると、病院常勤勤務医の週平均労働時間は56時間22分。労働基準法が定める週40時間を大きく超える過重労働が常態化しています。週60時間以上、いわゆる過労死ラインで働く医師は4割近くに上ります。
当直明けにそのまま外来、夜間呼び出し、学会準備。「忙しい」という言葉では収まらない働き方が、勤務医の標準になっています。
開業医の「忙しさ」はどうか
では開業医はどうか。東京保険医協会の調査データによれば、開業医は60%以上が週あたりの総労働時間を50時間未満に収めています。
勤務医と比べると、労働時間の分布は明らかに改善します。
ただし、楽になるかというと、そう単純でもありません。
診療時間と時間外労働を合わせた週間労働時間が「60時間以上」の開業医も約18%存在し、2割弱が過労死ラインで働いている実態があります。
また、週1日しか休めていない開業医は約3割。過半数が精神的ストレスを感じているという調査結果もあります。
数字だけ見ると「勤務医よりは改善する」。
ただし「楽になる」ではなく「忙しさの中身が変わる」という表現が正確です。
忙しさの「種類」が変わる
勤務医の忙しさは、外から降ってくる忙しさです。
当直の順番、急患の対応、上司からの指示。自分でコントロールしにくい忙しさが積み重なります。
開業医の忙しさは、自分が作る忙しさです。
診療時間・休診日・患者数の上限・スタッフの体制。これらはすべて、院長である自分が決めます。
診療以外に担う仕事も変わります。
勤務医であれば病院が担っていた経営判断・スタッフ管理・設備のメンテナンス・レセプト確認・医薬品の発注管理。これらがすべて院長の仕事になります。
開業医のスタッフ数は平均10.8名。職員の組織的な管理を要する規模であり、「人を束ねる仕事」が診療と並行して発生します。
忙しさの質が変わる、という感覚に近いです。
診療科によって忙しさは大きく変わる
開業医の忙しさは、診療科によっても大きく異なります。
患者数が多く回転が速い内科・小児科は、外来の物量的な忙しさがあります。
処置・手術が伴う整形外科・眼科は、診療密度が高い。
一方、自費診療中心の美容皮膚科・心療内科は、保険診療の外来と比べると一患者あたりの診療時間に余裕を持ちやすい傾向があります。
「どの診療科で開業するか」は、年収と同じくらい、働き方にも直結します。
忙しさをコントロールできるのが開業医
勤務医との最大の違いはここです。
開業後の労働環境は、コンセプトを定める段階から自ら決めることができます。診療時間・診療日・スタッフの労働条件を検討し実施する。非常勤医師やパートスタッフを活用することで、院長一人の長時間勤務を避けながら診療を提供できるように調整することも可能です。
「忙しいかどうか」は、開業の設計次第で変わります。
開業前にどういう働き方をしたいかを具体的に描いておくこと。それが、開業後の忙しさを決める最初の一手です。
まとめ
開業医は忙しいか。答えは「勤務医とは忙しさの種類が違う」です。
当直・オンコール・病棟業務からは解放される。その代わり、経営・スタッフ管理・クリニック運営という新しい仕事が加わる。労働時間は全体として改善する傾向がありますが、設計を間違えると開業医も長時間労働になります。
忙しさをコントロールできる立場になる。それが勤務医との本質的な違いです。
私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。
この記事の延長にある話を、3つだけ。
