開業医が後悔するケース|開業前に考えておきたいこと

開業を考える医師にとって、成功例の話を聞くことは多いかもしれません。
一方で、あまり語られないのが「後悔したケース」です。

2024年の診療所の倒産件数は31件と過去最多、休廃業・解散は361件と前年比10.4%増(東京商工リサーチ)。
すべてが後悔につながったわけではありませんが、「準備が十分だったら防げた」という声を現場で聞くことは少なくありません。

この記事では、開業医が後悔することが多いケースを、実例を交えながら整理します。
不安を煽るためではなく、開業前に考える材料を増やすためにまとめます。


目次

後悔ケース1|立地を十分に考えなかった

開業で最も大きな後悔につながりやすいのが立地です。
クリニックの場所は、内装やスタッフと違って、後から簡単に変えられません。

「立地は悪くないはずなんですけどね」という言葉を、開業後の医師から聞くことがあります。 駅から近い。人の流れもある。条件としては悪くない。それでも患者が来ない。

その原因の多くは、数字で見た立地と、患者が実際に来る立地のズレにあります。
人通りが多くても、通院する患者層ではない。競合が少なくても、需要そのものが薄い。

ある内科クリニックの院長は、診療圏調査の数字だけを見て物件を決めました。
実際に立ってみると、幹線道路を渡らなければ来られない立地で、高齢者には来院しにくい構造だったと言います。
「現地を何度も歩いていれば、気づけたはずだった」という後悔は、開業後では修正できません。


後悔ケース2|固定費が重すぎた

開業では、家賃・人件費・医療機器リース・システム費用などの固定費が発生します。
一般的なクリニックの月間固定費は175〜310万円前後。患者数が少ない時期でも、毎月変わらず出ていきます。

「理想の完成形」を最初から目指すと、固定費は積み上がりやすくなります。
広めの物件。多めのスタッフ。最新の設備。
どれも悪い選択ではありませんが、すべてが固定費になります。

ある医師は「売上が月500万円あっても、固定費を引くと手元に50万円しか残らなかった」と話していました。 開業から1年、その状態が続いたと言います。

固定費が重い状態では、判断が焦りから生まれやすくなります。
患者数を増やさなきゃ。
診療時間を延ばさなきゃ。
無理をしてでも続けなきゃ。
固定費の重さは、診療の質にも静かに影響します。


後悔ケース3|経営を想像していなかった

勤務医から開業医になると、医師であると同時に経営者になります。
スタッフの採用・育成・マネジメント。
設備の更新判断。
レセプト確認。
資金繰りの把握。
集患の設計。
これらが、診療と並行して動き続けます。

「診療以外の判断がこんなに多いとは思っていなかった」という声は、現場でよく聞きます。 特にスタッフ管理は、多くの開業医がストレスの上位に挙げる要因です。

ある医師は、開業半年で「医師としてではなく、経営者として悩む時間のほうが長くなった」と話していました。
経営の仕事は、準備していなければ開業後に初めて直面します。 「医師」と「経営者」の2役を担う覚悟が、開業前に整っているかどうかが分かれ目です。


後悔ケース4|働き方のイメージが違った

「開業すれば自由になれる」と思っていたのに、実際には勤務医時代より忙しくなったと感じるケースがあります。
診療時間は確かに自分で決められます。 ただし、その自由を守るための設計を最初にしておかないと、気づかないうちに時間が埋まっていきます。

「いつの間にか診療時間が延びていた」「休日も経営のことが頭から離れない」という声を複数の開業医から聞いてきました。

勤務医の忙しさは「病院の体制に左右される忙しさ」。
開業医の忙しさは「自分の判断次第で変わる忙しさ」。
忙しさの種類が変わるだけで、楽になるとは限りません。


後悔ケース5|家族への影響を過小評価していた

開業後の生活は、医師本人だけの話ではありません。
開業直後の1〜2年は収入が安定しない時期です。 その間も月175〜310万円前後の固定費は出ていきます。
この不安定な時期を、家族が一緒に乗り越えられる準備ができていたかどうか。

「自分は覚悟していたが、妻の不安を事前に解消できていれば、もう少し楽だったかもしれない」という言葉を、ある医師から聞きました。

家族との対話は、開業準備の一部です。
後回しにすると、開業後に家庭の問題と経営の問題が同時に重なることがあります。


後悔を減らすためにできること

後悔の多くは、情報が足りなかったからではありません。
考える順番が整っていなかった、または判断を急ぎすぎたことが原因のケースがほとんどです。

開業前に言葉にしておきたいことが4つあります。

立地は、患者の立場で実際に歩いて確認したか。
固定費は、患者が少ない月でも耐えられる水準に設定できているか。
経営者としての仕事を、具体的にイメージできているか。
家族と、開業後の生活について話せているか。

これらが整っていれば、後悔の多くは防げます。
「準備が足りなかった」と後から思わないために、今ここで整理しておくことが大切です。


まとめ

開業医が後悔するケースには、いくつかの共通点があります。
立地・固定費・経営の理解・働き方のイメージ・家族への影響。
これらを事前に整理しておくことで、開業後のギャップを小さくすることができます。

後悔を完全になくすことはできません。
ただ、納得して決めた開業は、迷った時間も含めて後から支えになります。


私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。

この記事の延長にある話を、3つだけ。

次に読むなら、このあたり

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この記事を書いた人

元医療施設設計士/医療事業プランナー

クリニックをはじめとする医療施設の設計を20年以上担当。
小児科・耳鼻咽喉科・皮膚科など、
子どもが通う医療施設の設計に特に力を入れてきた。

現在は設計を離れ、医療系企業の事業プランニングに従事。
「先を不安に思う医師の力に少しでもなれれば」という思いで
このサイトを運営している。

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