開業医というキャリア

医師のキャリアに、唯一の正解はありません。

勤務医として専門性を磨き続ける道。大学に残り研究・教育に携わる道。
そして、自分のクリニックを開く道。
勤務医の56.2%が開業に関心を持っているというデータがある一方、実際に踏み出す医師は限られています。

なぜ多くの医師が開業をキャリアの選択肢として意識しながら、動き出せないのか。
そして、開業という選択は何をもたらすのか。先輩開業医の声を交えながら整理します。

目次

医師のキャリアの選択肢

研修医を終えた後、医師のキャリアは大きく分岐します。病院勤務・大学医局・研究職・産業医・そして開業。それぞれに異なる働き方・収入・責任・やりがいがあります。

令和4年時点で、70,360人の医師が診療所開設者として自らの医療を実践しています。
7万人以上の医師が開業という道を選んでいる現実は、これが「一部の医師だけの特別な選択」ではないことを示しています。

開業を選んだ医師たちの声

開業動機として最も多いのは「理想の医療を追求するため」(42.4%)です。数字よりも、実際の声の方が伝わるかもしれません。

「自分の方針で診療ができる」(50代男性・眼科)、「やりたい診療ができる」(60代男性・循環器内科)、「自由な時間が増え、拘束されることがなくなった」(50代男性・耳鼻咽喉科)。
開業経験のある医師に「開業して良かったこと」を尋ねると、自由・裁量・収入・時間という4つのテーマが繰り返し登場します。

開業前の勤務医からも、こんな声があります。
「勤務医の稼ぎと自由度に限界を感じた。自分の可能性にフルにコミットしたい」(30代男性・小児科)、「意図しない業務が次々と降りかかる」(60代男性・一般外科)。
不満の蓄積だけでなく、「もっと自分らしく働けるはず」という感覚が、開業への動機として積み重なっていく様子が見えます。

開業は「働き方」だけでなく「責任の範囲」が変わる

開業すると、診療の裁量が広がる一方で、担う責任の範囲も大きく変わります。

勤務医時代は医師として診療に責任を持てばよかった。
開業後は、スタッフの採用・給与・教育、医療機器の管理、レセプト、資金繰り、集患。クリニックに関わるすべての判断が、院長の責任になります。

開業前の医師からは、こんな懸念も上がります。
「医療と経営の知識は別だと思う。経営スキルが不足している」(30代男性・消化器内科)、「経営やスタッフのマネジメントが必要になって臨床に集中できなくなるのが不安」(60代男性・消化器内科)。
この感覚は正直であり、準備で対処できるものです。

収入は「増えるが、変動する」

開業医の損益差額は約2,600万円。勤務医平均の約1,480万円と比べると、数字の差は大きい。ただし手取りは額面の50〜60%程度で、固定費・借入返済・人件費を差し引いた後の実質額です。

診療所院長の平均年収は、有床診療所で3,438万円、無床診療所で2,578万円。
一方でこれは平均値であり、開業初年度は患者数が安定せず、収入が勤務医時代を下回るケースもあります。
「頑張った分だけ報われる」という側面と、「患者が来なければ収入は生まれない」という側面。両方が開業医の収入の実態です。

キャリアとして開業を考えるとはどういうことか

「いつかは開業」と漠然と考えている段階と、「なぜ開業するのか」を自分の言葉で語れる段階は、全く異なります。

「いざ理念と言われても、なかなか言葉にできない医師も多くいます。
開業を決意した動機や、日頃大事にしている言葉など、素直な思いを表現するといいでしょう」と、開業コンサルタントは言います。
「患者さんと一緒に考えて治療をするクリニック」「ここに来て良かったと思われるホスピタリティで診療する」。
短く、具体的で、自分らしい言葉。それが、開業の軸になります。

診療スタイル・働き方・生活・収入・地域貢献。何を優先するかは、医師によって違います。大切なのは、自分がどの順番で何を大切にしているかを、開業前に整理しておくことです。

開業に「正しいタイミング」はない。ただし、準備には時間がかかる

開業年齢は幅広くなっており、65歳前後で開業した医師もいます。定年が見えてきた年齢で開業を決意したという声も増えています。
一方で、融資審査の現実として45歳を過ぎると借入条件が厳しくなる場合があり、開業準備には決意から12〜18ヶ月かかります。

「いつか」を「いつ」に変えるのは、情報と準備です。開業するかどうかの結論を急ぐ必要はありません。ただ、考え始めたなら、準備だけは早めに始めておく価値があります。


私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。

この記事の延長にある話を、3つだけ。

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この記事を書いた人

元医療施設設計士/医療事業プランナー

クリニックをはじめとする医療施設の設計を20年以上担当。
小児科・耳鼻咽喉科・皮膚科など、
子どもが通う医療施設の設計に特に力を入れてきた。

現在は設計を離れ、医療系企業の事業プランニングに従事。
「先を不安に思う医師の力に少しでもなれれば」という思いで
このサイトを運営している。

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