医療モールで開業するメリットと注意点

近年、クリニック開業の選択肢として存在感を増しているのが「医療モール」です。

内科・皮膚科・整形外科・調剤薬局などが同じ建物に集まる開業スタイル。
患者の利便性が高く、認知もされやすい。
一方で、工事費・運営ルール・競合関係など、通常の単独開業とは異なる視点が必要になります。
この記事では、医療モール開業の特徴を整理していきます。

目次

医療モールとは

複数のクリニックと調剤薬局が一棟に集まる医療特化型の施設です。
形態はさまざまで、クリニックだけが入居する「医療ビル」、戸建てが集まる「医療ビレッジ」、そしてショッピングモールやスーパーマーケットと同じ建物に入る「商業施設併設型」があります。
本記事では特に、スーパーマーケットを核テナントとするショッピングモールとの複合施設に入居する「商業施設併設型」を中心に解説します。

スーパーマーケット併設型の医療モールとは

スーパーマーケットを中心に、食料品・生活雑貨・飲食・医療が一棟に揃う複合施設です。
ショッピングモールの呼び名に倣って「医療モール」と呼ばれるようになった形態の中でも、日々の生活に欠かせない食料品を購入するスーパーマーケットのような施設に併設された医療モールは成功しやすいと言われています。
医療を「特別なこと」ではなく、買い物・食事と並ぶ「生活の一部」として地域住民に根付かせやすい点が、この形態最大の特徴です。

スーパーマーケット併設型ならではのメリット

生活動線に自然に組み込まれる

単独テナントのクリニックは、「受診しよう」という意志がなければ足を運ばれません。
スーパーマーケット併設型では、食料品の買い物・日用品の補充・食事といった日常の動線の中に、クリニックが位置することになります。
「今日は食材を買いに来たついでに、そういえば受診しておこう」という行動が自然に起きやすい。
受診のハードルが下がり、定期検診や早期受診につながりやすくなります。

診療・投薬待ち時間を有効活用できる

クリニックにとって避けにくいのが「待ち時間」の問題です。
単独開業では、患者は待合室で過ごすしかありません。
スーパーマーケット併設型では、「待ち時間に買い物できる」と来院するケースが多いという実態があります。
処方箋が出た後の調剤薬局での待ち時間も同様で、買い物を済ませている間に薬が準備されるという流れが自然に作れます。
待ち時間をストレスではなく「ついで」に変えられる。これは、患者満足度と再来院率の両方に関わります。

幅広い年齢層が集まる立地

スーパーマーケットは、乳幼児を連れた親・働く世代・高齢者まで、幅広い年齢層が週複数回訪れる施設です。
商業施設には幅広い年齢層の多くの人が訪れるため、クリニックの認知度が高まり、集患につながりやすいという特性があります。
内科・小児科・整形外科・皮膚科など、多くの診療科にとって、ターゲット患者層が自然に集まる立地です。

「ながら来院」が起きやすく、広告費を抑えられる

商業施設の集客力を利用することで、広告宣伝費を抑えることができます。
「スーパーに来たら、クリニックの存在に気づいた」という受動的な認知が日常的に積み重なる。
開業初期に集患広告に頼らなくても一定の認知を得られやすいのは、スーパーマーケット併設型の大きな強みです。

広い駐車場が確保されている

郊外型ショッピングモールでは大型駐車場が前提です。
近年のショッピングスタイルは、電車利用の駅前・都市部型から、車利用の郊外型へと移り変わってきており、モールでは必ずと言っていいほど大型無料駐車場を併設している。
単独開業では確保が難しい十分な駐車スペースが、施設共用という形で利用できます。
車での通院が主流となる地域では、これは集患の実質的な条件となります。

バリアフリー設計・共用設備が充実

駐車場やトイレ等は施設に設置されているものを利用できるため、初期費用を抑えたいクリニックにとっても適しています。
商業施設はバリアフリー設計・授乳室・ベビーカー対応エレベーターなどが整備済みであるケースが多く、高齢患者や子連れの患者への対応コストも抑えられます。

スーパーマーケット併設型ならではの注意点

施設の集客力に経営が左右される

メリットの裏返しでもあります。
併設されている商業施設の評判に集患が左右されてしまう可能性があります。他の商業施設ができたり、施設の老朽化が進み集客力がダウンすると、集患力も同時にダウンしてしまう可能性が高いです。
施設全体の集客力が落ちれば、クリニックの来院数にも直結します。
契約前に、施設の商圏・競合・将来計画を確認しておくことが必要です。

医療とは異なる賑わいが診療環境に影響することがある

スーパーマーケット内は、子どもの声・BGM・アナウンスが日常的に流れます。
心療内科・精神科のようにプライバシーや静寂が重要な診療科には、不向きな場合があります。
また、来院者が「買い物客」と混在する動線になる場合は、患者が「クリニックに来た」という感覚を持ちにくくなることも。
診療科の特性と施設の雰囲気の相性を事前に確認してください。

テナント料が割高になりやすい

ショッピングセンターや駅ビルなどにクリニックが入っているケースは、テナント料が高くなる点がデメリットです。
商業施設の賃料水準は一般的なテナントビルより高く、月間固定費の圧迫要因になります。
月間固定費の目安は一般的に175〜310万円前後ですが、スーパーマーケット併設型では賃料単価が上振れするケースがあります。
賃料だけでなく、共益費・管理費の内訳まで確認した上で収支計画を立ててください。

駐車場が「満車」になりやすい時間帯がある

広大な駐車場も、週末や特売日には混雑します。
複合施設のワンフロアが医療モールである場合など、収容台数は多くても常に満車気味な場合もあります。
来院時間帯の駐車場混雑状況は、内覧時だけでなく繁忙日にも確認しておくのが安全です。患者専用スペースの確保が可能かどうかも、入居前に交渉しておきましょう。

A・B・C工事の費用負担に注意

スーパーマーケット併設型のような大規模商業施設では、工事が「A工事・B工事・C工事」の3区分で管理されます。

A工事は建物躯体・共用部に関わる工事で、費用もオーナー負担。テナント側は原則関与しません。

B工事は、テナント専有部内でありながら建物全体の設備に影響する工事です。防災設備(火災報知器・スプリンクラー)、空調設備、電気・給排水設備が含まれます。「業者はオーナー指定・費用はテナント負担」という構造のため、相見積もりが取れず割高になりやすい。大型商業施設ほど基準が厳しく、消防・防災関連の予算は特に多めに見ておく必要があります。

C工事は、テナント側が業者を自由に選べる内装・什器・LAN配線などの工事です。コストコントロールはしやすいものの、オーナーへの事前承認が必要なケースもあります。

B工事の費用は、場合によって当初想定の2〜3倍になることもあります。契約前に「工事区分表」を必ず取り寄せ、何がB工事に含まれるかを確認してください。

消防・防災設備のコストに注意

クリニックは不特定多数が出入りする特定防火対象物として扱われます。
大型商業施設内では消防基準がより厳格になる傾向があり、B工事として計上される消防設備費が想定以上に膨らむことがあります。
延べ面積・収容人数によっては自動火災報知設備の設置・防火管理者の選任も必要です。

看板・サイン工事の制約が大きい

商業施設では外装・看板のデザインや設置場所がモール側の規定で厳しく管理されています。
「目立つ看板を出したい」「窓にサインを貼りたい」という希望が、入居後に制限されるケースは少なくありません。
ビルエントランスへの共用サインスペースの有無、袖看板・窓サインの設置条件は、契約前に必ず確認してください。
可能であれば、サイン業者に同行してもらって現地確認するのが安全です。

空調設備の制約

商業施設ではビル用マルチエアコンの採用が前提となるケースがほとんどです。
クリニックは部屋数が多く空調台数も増えます。空調工事はB工事に含まれることも多く、費用が膨らみやすい項目の一つです。

スーパーマーケット併設型と相性の良い診療科

内科・小児科・皮膚科・耳鼻咽喉科・眼科など、定期受診や家族全員での来院が起きやすい科目と相性が良い傾向があります。
「子どもの受診ついでに親も」「薬待ちの間に食材を購入」という行動が自然に発生しやすいためです。
逆に、精神科・心療内科のようにプライバシーや静かな環境が重要な診療科は、賑やかな商業施設との相性に注意が必要です。

まとめ

スーパーマーケット併設型の医療モールは、生活動線への組み込みやすさ・待ち時間の活用・広い駐車場・幅広い集客層という点で、通常の単独テナントや医療専用ビルにはない強みを持っています。
一方で、賃料の高さ・施設集客力への依存・B工事コスト・看板制約など、入居前にしっかり確認すべき項目も多い。

「立地が良さそう」という印象だけで即決せず、工事区分表・賃料条件・施設の将来計画・看板ルールを一つずつ確認してから判断する。それだけで、開業後のコスト超過や予想外のトラブルをかなり防げます。


私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。

この記事の延長にある話を、3つだけ。

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この記事を書いた人

元医療施設設計士/医療事業プランナー

クリニックをはじめとする医療施設の設計を20年以上担当。
小児科・耳鼻咽喉科・皮膚科など、
子どもが通う医療施設の設計に特に力を入れてきた。

現在は設計を離れ、医療系企業の事業プランニングに従事。
「先を不安に思う医師の力に少しでもなれれば」という思いで
このサイトを運営している。

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