勤務医と開業医の違い|働き方・収入・生活はどう変わるのか

「開業するか、このまま勤務医を続けるか」

医師として働いていると、この問いに一度は向き合う瞬間があります。
先輩医師が開業したと聞いたとき。
医療モールの看板を見たとき。
患者から「先生も開業しないんですか」と言われたとき。

ただ、この問いは「どちらが得か」という話ではありません。
勤務医と開業医は、収入の構造も、時間の使い方も、責任の取り方も、根本から違います。

この記事では、その違いを働き方・収入・生活・責任の4つの視点から、数字と実例を交えて整理します。
すぐに結論を出すためではなく、「自分に合う働き方はどちらか」を考える材料として読んでいただければと思います。


目次

勤務医という働き方

勤務医は、病院やクリニックに所属して働く医師です。 医療機関の方針や診療体制の中で診療を行い、チーム医療の中で専門分野に集中できる環境があります。

収入は基本的に給与として支払われます。
厚生労働省の医療経済実態調査(令和7年11月公表)によると、一般病院に勤務する医師の給与・賞与合計の平均は約1,480万円。 当直料や各種手当が加わるケースもあります。

勤務医の強みは、収入が安定していること、医療以外の意思決定を深く抱えなくてよいことです。
その分、診療時間・休日・勤務先の方針は、医療機関の体制に左右されます。


開業医という働き方

開業医は、自分のクリニックを運営する医師です。 診療時間・休診日・スタッフ体制・診療方針を自分で決めることができます。

その一方で、開業医は「医師」「管理者」「経営者」の3役を担います。
診療以外に、スタッフ採用・設備投資・資金繰り・集患といった仕事が加わります。

ある内科クリニックの院長は、「開業して一番驚いたのは、診療以外の判断がこんなに多いことだった」と話していました。
自由と責任はセットです。 診療スタイルを自分で決められる分、その結果も自分が引き受けることになります。


働き方の違い

勤務医

勤務時間や役割は医療機関の体制の中で決まります。 当直やシフト勤務がある分、生活リズムが不規則になることもあります。

厚生労働省の調査によると、病院勤務医(男性)の週平均労働時間は57時間超、60時間以上が全体の40%以上を占めています。

医療以外の業務を深く考えなくてよいという点は、働きやすさにつながります。
ただし、診療スタイルや患者との関わり方を自分で設計する余地は、限られることが多いです。

開業医

診療時間・休診日を自分で決められます。 「週4日診療、水曜と日曜は休診」という設計も可能です。

東京保険医協会の調査によると、開業医の60%以上が週50時間未満の労働時間です。 数字だけ見れば、開業医のほうが労働時間は短い傾向にあります。

ただし、診療後の事務・経営判断・スタッフ対応の時間は含まれていないことも多い。 「診療は終わったけど、仕事は終わらない」という感覚を持つ開業医は少なくありません。


収入の違い

勤務医の収入

勤務医の収入は給与です。 毎月決まった額が入り、大きな変動は起こりにくい。 安定している反面、大きく増えることも限られます。

開業医の収入

開業医の収入は、クリニックの売上から経費を引いたものです。 個人立・外来のみの一般診療所の損益差額は年間約2,600万円(前述の調査より)。 ただしここから借入返済・社会保険料・税金を引くと、実質手取りは額面の50〜60%程度になる場合もあります。

開業直後は患者数が安定しないため、収入も安定しません。 軌道に乗り始めるのは開業から1〜2年後が多く、その間も月175〜310万円前後の固定費は変わらず出ていきます。

「開業したから収入が増える」のではなく、「条件がそろうと増えうる」という理解が現実的です。


生活の違い

勤務医の生活

当直や夜勤がある分、生活リズムが不規則になることがあります。
ただし収入が安定している分、住宅ローンの審査が通りやすく、家族の生活設計を組みやすいという面もあります。

開業医の生活

診療時間を自分で決められるため、生活リズムを整えやすい面があります。
ただし開業直後の1〜2年は、収入が安定しない時期と重なります。

「自分は覚悟していても、家族の不安をどう扱うか」という問題は、開業後に初めて気づく医師も多い。
生活への影響は、医師本人だけの話ではありません。


責任の違い

勤務医の責任

主に医療行為に対して責任を持ちます。
組織の中で役割が分かれているため、医療以外の責任は分担されていることが多い。

開業医の責任

医療だけでなく、クリニック全体の運営に責任を持ちます。
スタッフの雇用・設備投資・経営判断など、すべての意思決定が自分に返ってきます。

「自由になりたくて開業した結果、孤独に気づく」という声は、現場でも少なくありません。
自由と孤独は、開業医にとって表裏一体です。


どちらが良いかは人によって違う

勤務医と開業医は、どちらが優れているというものではありません。

安定した収入と組織の中での医療を大事にするなら、勤務医という選択は十分に合理的です。 自分の診療スタイルを作り、地域と長く関わりたいなら、開業という形が合うかもしれません。

開業を考え始める医師は、30代後半〜40代に多い傾向があります。 臨床経験が積み上がり、キャリアと生活設計を同時に見直す時期と重なるからです。
ただし、これは傾向であって正解ではありません。

大切なのは、収入だけでなく、働き方・生活・診療スタイル・責任を整理した上で判断することです
。 「続けられるか」で考えると、見え方が変わります。


私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。

この記事の延長にある話を、3つだけ。

次に読むなら、このあたり

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この記事を書いた人

元医療施設設計士/医療事業プランナー

クリニックをはじめとする医療施設の設計を20年以上担当。
小児科・耳鼻咽喉科・皮膚科など、
子どもが通う医療施設の設計に特に力を入れてきた。

現在は設計を離れ、医療系企業の事業プランニングに従事。
「先を不安に思う医師の力に少しでもなれれば」という思いで
このサイトを運営している。

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