医師が開業を考えるタイミング──「いつ」より「どんな状態で」が大切

「開業するなら、いつ頃がいいですか?」

この質問も、よく聞きます。 30代でないと遅い、という人もいれば、40代からのほうが安定するという人もいる。 情報を集めるほど、答えが見えにくくなる問いのひとつです。

長く現場を見てきて感じるのは、「いつ」より「どんな状態で」のほうが、ずっと大切だということです。

目次

多くの医師が開業を考え始める時期

厚生労働省「令和2年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、診療所を開設している医師のうち、最も多い開業年齢帯は40代前半です。

ただし、30代での開業も珍しくなく、50代以降に開業するケースも増えています。 近年は高齢開業医の引退増加により、承継開業(既存クリニックの引き継ぎ)という形も台頭してきており、開業の選択肢と年齢の関係は以前より広がっています。

「30代後半〜40代が多い」という傾向の背景には、こんな理由があります。

勤務医として10年前後の経験を積み、専門性に自信が持てるようになる。 子どもの教育費や住宅ローンなど、生活設計が具体的になってくる。 勤務先の環境変化(上司の異動、病院の方針転換)がきっかけになる。

ただしこれは傾向であって、正解ではありません。

開業を考え始めるきっかけ

現場で聞いてきた中で、よく出てくるきっかけを挙げます。

「自分の診療スタイルで診たい」という気持ちが強くなったとき。
病院の方針と自分の医療観がずれてきたとき。
先輩や同期の開業を見て、具体的にイメージできるようになったとき。
家族の状況が変わり、生活設計を見直したとき。

ある内科医は40代前半で開業を決めました。
きっかけは「外来の一人あたりの時間が5分を切るようになったこと」だったと言います。 「このまま続けることへの違和感が、開業への一歩より大きくなった」というのが、正直なところだったと。

きっかけは人それぞれですが、共通しているのは「このままでいいのか」という問いが生まれた瞬間です。

早すぎる開業、遅すぎる開業はあるのか

「早く開業したほうが、ローン返済の時間がある」という考え方があります。 一方で「経験が少ないうちの開業はリスクが高い」という声もあります。

どちらも、一定の正しさがあります。

ただ現場で見てきて感じるのは、年齢よりも準備の質が成否を分けているということです。

開業資金は一般的に5,000万〜1億円前後(診療科・物件形態によって異なる)が目安とされています。
自己資金の目安は総費用の20〜30%、残りを金融機関からの借入で賄うケースが多い。

この規模の借入をした上で、開業直後から月500万円前後の固定費を支払い続ける。
その現実に向き合える状態かどうかが、タイミングの本質です。

「今じゃないかもしれない」も、立派な判断

開業準備の標準的なスケジュールは、決意から開業まで12〜18ヶ月と言われています。 物件選定・設計・スタッフ採用・各種申請・資金調達と、並行して進むことが多い。

この準備期間を、焦って短縮しようとした結果、物件の選定が不十分になったり、スタッフが揃わないまま開業したりするケースを見てきました。

「今がタイミング」と言われる場面は多い。 ただ、急かされて決断した開業が、うまくいくとは限りません。

「少し待つ」という選択肢を持てることが、開業判断の質を上げます。

ある医師は、一度開業を保留しました。
「物件が見つかった」「今が良い時期」と言われたものの、自分の中の準備が整っていない感覚があったと言います。
1年後、別の物件で改めて開業した今、「あのとき待てて良かった」と話しています。

「いつ」より「どんな状態で」

開業のタイミングに、正解はありません。 ただ、こうした状態が整っているかどうかは、確認しておく価値があります。

・診療スタイルが、言葉にできているか
・固定費の重さを、感覚として持てているか
・家族の理解と準備が、できているか
・「うまくいかなかったとき」を、想像できているか

これらが整っていれば、30代でも40代でも、開業のタイミングは来ます。 逆に整っていなければ、どのタイミングでも不安は消えません。

「いつ開業するか」より「どんな状態で開業するか」。 その順番で考えると、見え方が変わります。


私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。

この記事の延長にある話を、3つだけ。

次に読むなら、このあたり

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この記事を書いた人

元医療施設設計士/医療事業プランナー

クリニックをはじめとする医療施設の設計を20年以上担当。
小児科・耳鼻咽喉科・皮膚科など、
子どもが通う医療施設の設計に特に力を入れてきた。

現在は設計を離れ、医療系企業の事業プランニングに従事。
「先を不安に思う医師の力に少しでもなれれば」という思いで
このサイトを運営している。

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