「開業資金って、いくらくらい必要ですか?」
この質問も、とてもよく聞きます。そして多くの場合、答えを探すときに、設備費や内装費から考え始めます。
もちろん、それらも大切です。ただ、長く現場を見てきて感じるのは、本当に効いてくるのは開業資金そのものよりも、毎月出ていく固定費だということです。
固定費は、開業後、静かに、でも確実に効いてきます。
固定費は「毎月、必ずかかるもの」
固定費とは、売上が多くても少なくても、毎月ほぼ変わらずに出ていくお金のことです。
家賃。
人件費。
リース料。
システム利用料。
この固定費の感覚を持てているかどうかで、開業後の判断の質は大きく変わります。
なぜ固定費が、あとから効いてくるのか
売上は上下するが、固定費は動かない
売上は、季節や地域、偶然の要素で変わります。
一方で、固定費は、ほぼ毎月同じ額が出ていきます。
この差が、開業から半年後の気持ちの余裕を、静かに決めていきます。
判断を急がせる正体になりやすい
固定費が重いと、少し売上が落ちただけで気持ちが焦ります。
・患者数を増やさなきゃ
・診療時間を延ばさなきゃ
・無理をしてでも続けなきゃ
こうした判断は、冷静さよりもプレッシャーから生まれやすくなります。
固定費が重くなったある医師は、『患者さんの前では笑顔でいるのに、帰り道が怖かった』と話していました。
固定費のプレッシャーは、診察室の外で静かに蓄積します。
固定費は「金額」より「重さ」で考える
固定費を見るときに大切なのは、細かい正確さよりも自分にとっての重さです。
・少し売上が下がっても耐えられるか
・体調を崩した月でも支払えるか
・気持ちに余裕を残せるか
この感覚は、数字を眺めているだけでは分かりません。
固定費が重くなりやすいポイント
「理想」をそのまま積み上げてしまう
・広めの物件
・多めのスタッフ
・最初から充実した設備
どれも、悪い選択ではありません。
ただ、それらがすべて固定費になると想像以上に重く感じることがあります。
あとから下げにくいものが多い
固定費の特徴は、一度決めると下げにくいことです。
家賃。
人件費。
リース契約。
だからこそ、最初の設定がとても大切になります。
たとえばリース契約は5〜7年が一般的で、途中解約には違約金が発生することもあります。 開業前の一つの判断が、長期間にわたって影響します。
固定費を考えるときの、ひとつの視点
固定費を減らすことが、正解というわけではありません。
大切なのは、「これなら続けられる」と思えるラインを知っておくことです。
少し余裕がある。
少し下振れても大丈夫。
その感覚があるだけで、開業後の判断はずいぶん楽になります。
固定費は、安心を買っているとも言える
こう考えると、固定費の見方が少し変わります。 固定費は、ただのコストではありません。
安心して診療するための、土台でもあります。
無理のない固定費は、無理のない医療につながります。
逆に言えば、固定費の重さは、日々の診療に静かに影響します。
最初から、完璧に決めなくていい
固定費についても、最初から完璧な答えを出す必要はありません。
ただ、「この重さなら、どう感じるか」を想像しておくこと。
それだけで、あとからの後悔は、かなり減らせます。
固定費の感覚を持つことは、納得して開業するための、最初の一歩です。
私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。
うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。
焦らず、ここで少し整理していってください。
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