開業医の年収は本当に高いのか|勤務医との違いと収入の考え方

開業を考え始めた医師が、かなり早い段階で気になることのひとつが「年収」です。
勤務医を続けた場合と、開業した場合では、収入はどう変わるのか。 開業医は年収が高いというイメージがある一方で、「実際にはどうなのか」「本当に安定するのか」と気になる医師も少なくありません。

実際、開業医の年収は勤務医より高くなる可能性があります。
ただし、それはどの診療科でも、どの立地でも、誰でも同じという話ではありません。

この記事では、開業医の年収について、勤務医との違いも含めながら、数字の見方と考え方を整理します。


目次

開業医の年収は「売上」ではなく「残る金額」で考える

開業医の年収を考えるとき、まず整理しておきたいのは、売上と年収は同じではないということです。

厚生労働省の医療経済実態調査(令和7年11月公表)によると、個人立・外来のみの一般診療所の年間医業収益は約8,800万円
ここから家賃・スタッフ給与・医療材料費・設備費などを支払った後の損益差額は約2,600万円。 これが開設者の手取りに近い数字です。

ただしこれは、借入金の元本返済・社会保険料・税金を差し引く前の数字です。 これらを引くと、実質的な手取りは額面の50〜60%程度になる場合もあります。

「売上が大きい=年収が高い」とは限りません。
立地が良くて売上が高く見えても、家賃や人件費の負担が大きければ、思ったほど残らないことがあります。
逆に、派手ではない立地でも、固定費のバランスが良ければ安定して収益が残ることもあります。


勤務医と開業医では、収入の性質が違う

同じ「医師の収入」でも、勤務医と開業医では性質がかなり違います。
勤務医の収入は給与です。 同調査によると、一般病院に勤務する医師の給与・賞与合計は平均約1,480万円
毎月の収入が比較的安定しており、患者数の変動を直接受けにくい安心感があります。

開業医の収入は、クリニック経営の結果として生まれます。
医療法人・一般診療所の院長報酬(給与・賞与合計)の平均は約2,900万円という数字がある一方で、これは平均値であり、うまくいっているクリニックもそうでないクリニックも含んでいます。

勤務医は収入の上限が比較的見えやすい代わりに、日々の経営リスクを直接負わずに済みます。
開業医は収入が伸びる可能性がある一方で、変動と責任も引き受けることになります。

「どちらが高いか」ではなく、「どちらの収入の性質が自分に合うか」という視点も重要です。


開業医の年収を左右する主な要素

1.患者数

最も大きい要素のひとつが患者数です。 ただし、単純に「多ければいい」というわけではありません。

患者数が増えると、スタッフ数・設備負荷・運営の複雑さも増していきます。
患者数の増加がそのまま利益の増加になるとは限りません。

それでも、一定の患者数が確保できるかどうかは、開業医の収入を考える上での土台になります。

2.立地

立地は、患者数にも固定費にも影響するため、年収に対してかなり大きな要素です。

良い立地であれば患者が来やすい反面、家賃が高くなりやすい。
一般的なクリニックの月間固定費は175〜310万円前後ですが、立地によって家賃だけで50〜100万円以上変わることがあります。

立地は集患力・固定費・継続通院のしやすさの3つを一緒に見る必要があります。

3.診療科

診療科によって、患者数の構造・単価・通院の継続性が変わります。

内科は患者単価が低めですが定期通院が安定しやすい。
眼科・整形外科は単価が高めですが設備投資も大きい。 皮膚科は自由診療との組み合わせ次第で収益構造が大きく変わる。

「開業医の年収」を見るときは、診療科ごとに考えるほうが現実に近くなります。

4.家賃と固定費

収入を考えるとき、売上ばかりに目が向きやすいですが、固定費のほうが重要なこともあります。
家賃・人件費・医療機器リース・システム費用。
これらが積み重なると、売上がある程度あっても利益が残りにくくなります。

開業医の年収を安定させたいなら、売上を増やす視点と同じくらい、固定費を整える視点が重要です。


開業医の年収は高いのか

結論としては、高くなる可能性はあります。 ただし、「可能性」と「確実」は違います。
うまく軌道に乗れば、勤務医より高い収入になることは十分ありえます。 一方で、立地が合わない・競合が強い・固定費が重い・開業初期に患者が伸びない、といったことが重なると、想定より収入が伸びないこともあります。

開業医の年収は「開業したから高い」のではなく、「条件がそろうと高くなりうる」という理解のほうが現実的です。

2024年の診療所の倒産件数は31件と過去最多(東京商工リサーチ)。 休廃業・解散は361件と前年比10.4%増。
「うまくいくはず」という楽観バイアスが、最大のリスク要因のひとつです。


開業医の収入は安定するのか

年収と同じくらい大事なのが、「安定するのか」という視点です。
開業当初は患者数が安定しないため、収入も安定しません。 多くのクリニックで収入が軌道に乗り始めるのは、開業から1〜2年後と言われています。
その間も固定費は変わらず出ていくため、半年〜1年分の運転資金を確保しておくことが大切です。

最初は順調でも、競合環境や人口構成の変化・スタッフ体制の問題で収益が崩れることもあります。
開業医の収入は「最初から安定している」ものではなく、安定する構造を作れるかどうかが大事です。


年収だけで開業を判断しない方がいい理由

開業を考えるとき、年収はもちろん気になるテーマです。 ただ、年収だけで判断しようとすると、見落とすものが多くなります。
働き方はどう変わるのか。
家族との時間はどうなるのか。
診療スタイルをどう作りたいのか。
リスクをどこまで引き受けられるのか。

こうしたことは、数字だけでは決められません。 年収が少し高くても、働き方や生活との相性が悪ければ、納得感のある選択にならないこともあります。

大切なのは、年収を「重要な判断材料のひとつ」として扱いながら、それだけに引っ張られすぎないことです。


年収を現実的に考えるための順番

1.まず診療科の特性を見る

患者層・継続通院の起こりやすさ・立地との結びつきを確認します。

2.次に立地を見る

人口・競合・動線・家賃。患者が来る構造と、収益が残る構造の両方を見ます。

3.固定費を現実的に見る

家賃・人件費・設備費。開業初期でも耐えられるかを試算します。

4.年収は”結果”として見る

最初から年収だけを目標にするのではなく、患者が来て・運営が回って・継続できることの結果として年収が決まる、という順番で考えるとブレにくくなります。


まとめ

開業医の年収は、勤務医より高くなる可能性があります。 ただし、開業しただけで自動的に手に入るものではありません。

患者数・立地・診療科・固定費。 こうした条件が重なって、はじめて収入の形が決まっていきます。

年収だけを見て判断するよりも、どういう構造で収入が成り立つのかを理解することが、結果的に納得しやすい選択につながります。

実際に物件を見るときは、「ここで何人来そうか」だけでなく、「この家賃と固定費で無理がないか」まで一緒に考えると、年収の見え方もかなり現実的になります。


私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。

この記事の延長にある話を、3つだけ。

次に読むなら、このあたり

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この記事を書いた人

元医療施設設計士/医療事業プランナー

クリニックをはじめとする医療施設の設計を20年以上担当。
小児科・耳鼻咽喉科・皮膚科など、
子どもが通う医療施設の設計に特に力を入れてきた。

現在は設計を離れ、医療系企業の事業プランニングに従事。
「先を不安に思う医師の力に少しでもなれれば」という思いで
このサイトを運営している。

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