「理想の医療を追求したい」という思いで開業する。それは正直な動機であり、多くの開業医が実際にそう語ります。
ただ、日本医師会のアンケート調査では、過去5年以内に開業した医師の約6割が開業理由に「理想の医療の追求」を挙げた一方で、開業後にストレスが強くなったと答えた医師も半数を上回りました。
理想を持って踏み出した先に、想定していなかったストレスが待っている。
このギャップを知らずに開業すると、精神的に消耗するだけでなく、経営判断にも影響が出ます。
この記事では、開業医が感じやすいストレスの中身を整理します。
「経営者」になるストレス
勤務医は医師として働けば収入が得られます。開業医は、経営が成り立たなければ収入も生まれません。
月間固定費は175〜310万円前後。スタッフの給与・賃料・医療機器のリース・消耗品・借入返済。これらは患者数に関係なく毎月発生します。
診療報酬の見直しにより、診療内容に見合わないと感じる低報酬の治療もあり、思うように利益を上げられない不安が開業医には付きまといます。
また、新しい業務として、マーケティング・経理・労務・行政手続きなど、医師として訓練を受けていない分野の仕事が次々と加わります。
「経営のことは開業してから覚えればいい」という姿勢では、最初の1〜2年で疲弊するリスクがあります。
スタッフ管理のストレス
医師のストレス要因として最も多く挙げられるのが「職場の人間関係」(37%)です。
勤務医時代は組織の中の一員として人間関係を調整する立場でしたが、開業医になると、すべての人間関係の最終的な責任者になります。
採用・育成・評価・退職対応。スタッフが一人辞めれば、採用活動・引き継ぎ・戦力低下が同時に起きます。「スタッフ採用や外注に踏み切れず、院長一人がすべてを行うワンオペ化が進む」という悪循環に陥るケースも、現場では少なくありません。
看護師の採用は開業6ヶ月前から始めるのが目安とされていますが、採用できなかった場合のリスク管理も、開業前から考えておく必要があります。
「代わりがいない」というプレッシャー
勤務医であれば、体調不良のときは上司や同僚に代わってもらえます。開業医には、基本的に代わりがいません。
「代わりがいないことが一番きつい」という声は開業医のアンケートにも率直に上がっており、自身が体調を崩せば即収入減につながるため、体調管理に強いプレッシャーを感じるようになった、という開業医は多くいます。
病気・けが・家族の緊急事態。勤務医時代は「個人の事情」で済んでいたことが、開業後は「クリニック全体の問題」になります。このプレッシャーは、開業前にはなかなか想像しにくいものです。
孤独というストレス
勤務医時代には、悩みを相談できる同僚・先輩・上司がいました。
開業後、院長として同じ立場で話せる相手は、急に少なくなります。
中小企業経営者を対象とした調査では、「経営者は結局、孤独である」と答えた割合が47%に上りました。また「従業員には自分の弱気な面は見せられない」と感じる経営者も45%を超えています。
開業医も経営者である以上、この構図は共通します。経営の悩み・スタッフへの不満・収益への不安を、スタッフには話せない。その孤独が、じわじわと精神的な負荷になっていきます。
それでも、ほとんどの開業医は「慣れる」
ここまで書いてきたことは、開業医のリアルな一面です。ただ、もう一面も伝えておく必要があります。
開業後のさまざまなストレスについて、ほとんどの医師が乗り越える(慣れる)ことができています。
経営の感覚は身につく。
スタッフ管理のコツはわかってくる。
孤独を埋める同業者のコミュニティも見つかる。
ストレスは「永続するもの」ではなく、「準備と経験で軽減できるもの」です。
開業後のストレスが「弱くなった」と答えた医師も全体の22.2%存在します。
開業のストレスを知っておくことは、開業を諦める理由ではなく、準備を丁寧にする理由になります。
まとめ
開業医のストレスは、大きく4つに整理できます。
経営責任のプレッシャー、スタッフ管理の難しさ、代わりがいない孤独感、そして経営者としての孤立。
これらはいずれも、「開業してみて初めてわかる」と言われるものです。
知っておくことで、準備が変わります。税理士・社労士・開業コンサルタントとの連携、スタッフ採用の前倒し、同業の開業医とのネットワーク作り。
ストレスの多くは、仕組みで軽減できます。
私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。
この記事の延長にある話を、3つだけ。
