開業支援会社や不動産会社から、診療圏調査の資料を見せられることがあります。
人口・年齢構成・競合数・将来推計・患者数予測。 多くの数字が並んでいて、「何を見ればいいのか分からない」と感じる医師も少なくありません。
ただ、長く現場を見てきて感じるのは、診療圏調査で本当に効いてくる数字は、それほど多くない、ということです。 この記事では、医師が押さえておきたい3つの数字に絞って整理します。
診療圏調査とは何か
診療圏調査とは、クリニック周辺の人口・年齢構成・医療機関の状況を分析し、開業の可能性を考えるための資料です。
多くの場合、開業支援会社や不動産会社が作成して提供します。 ただし、資料を作る側の意図が入ることもあるということは、頭に置いておいてください。 「この立地は有望です」という結論ありきで作られた資料は、見せ方が偏ることがあります。
資料に依存するのではなく、数字の読み方を自分で持っておくことが大切です。
医師が見るべき3つの数字
数字1|人口(総数より「構成」を見る)
まず確認するのは人口です。 ただし、総人口だけを見ても判断は難しい。大事なのは年齢構成と将来推計です。
高齢者比率が高い地域では、内科・整形外科・泌尿器科のニーズが高まりやすい。 子育て世代が厚い地域では、小児科・産婦人科・皮膚科が成立しやすい。 昼間人口が多い地域では、勤労世代向けの診療(内科・メンタル・美容)との相性が良い。
さらに重要なのが将来推計です。 現在の人口が多くても、10〜20年後に急減する地域では、長期経営の見通しが変わります。 国立社会保障・人口問題研究所の「地域別将来推計人口」は、無料で確認できます。
「今の人口」より「これからの人口」を見ると、判断がブレにくくなります。
数字2|競合(数より「強さと空白」を見る)
次に確認するのが競合です。 ただし、競合は数だけで判断しないほうが安全です。
同じ診療科が5軒あっても、それぞれが異なる患者層を診ていれば、成立の余地はあります。 逆に1軒しかなくても、圧倒的な評判と設備を持つ競合がいれば、勝ち筋を作るのは難しい。
見るべきは、競合が取り切れていない患者層があるかです。
たとえば、近隣クリニックの口コミを確認すると、「待ち時間が長い」「予約が取りにくい」という声が多いことがあります。 そこに「予約制・待ち時間の短さ」を強みとして入れると、差別化が成立しやすくなります。
診療圏調査の競合欄は「施設名と距離」だけのことも多い。 数字を見た後に、必ず現地で競合を自分の目で確認することが大切です。
数字3|距離(「半径」より「体感距離」を見る)
診療圏調査では、「半径1km以内の人口」「半径2km以内の競合数」という形で距離が示されることが多い。
ただし、地図上の距離と患者が感じる体感距離は、大きく違うことがあります。
半径1km以内でも、大きな幹線道路や川があると心理的に「遠い」と感じる患者は多い。 逆に、1.5km離れていても、バス停が近く動線が良ければ「通いやすい」と感じてもらえることもあります。
距離は数字より「患者が来る気になるか」で判断すること。 実際に物件から患者の生活導線を歩いてみる。その感覚が、数字より正直です。
数字を見た後に、現地で確認すること
診療圏調査は重要ですが、数字だけで立地の良し悪しは決まりません。
数字は「判断の下地」を作るものです。 その上で、現地で必ず確認したいことが3つあります。
患者目線で入口まで歩いてみること。 時間帯を変えて(朝・夕方・雨の日)複数回見ること。 競合クリニックの外観・動線・混み方を自分の目で確かめること。
ある医師は、診療圏調査では「競合少・人口多」という好条件の物件を選びました。 ただし現地を歩くと、幹線道路を渡らなければ来られない立地で、高齢者には来院しにくい構造だったと言います。 数字が良くても、体感が悪い立地は成立しにくい。 現場で見てきた実感です。
まとめ
診療圏調査には多くの情報が載っています。 ただし、医師がまず見るべきなのは人口の構成・競合の強さと空白・体感距離の3つです。
この3つを自分の軸で整理できると、立地は”雰囲気”ではなく”判断”になっていきます。 数字は材料です。最後に判断するのは、自分です。
私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。
この記事の延長にある話を、3つだけ。
