医療モール物件の見方|同じモールでも差が出る理由

物件を見るとき、多くの医師が最初に確認するのは家賃と広さです。もちろん重要な数字ですが、それだけでは判断できません。

同じモールに同じ診療科で入居しても、患者数が2倍以上違うことがあります。
その差を生むのは「区画」「導線」「診療圏の読み方」です。医療モール物件を本当の意味で見るとはどういうことか、この記事で整理していきます。

目次

物件を見る前に:診療圏調査を正しく読む

物件の優劣を判断するには、そもそもそのエリアに患者がいるかどうかを把握しておく必要があります。

推計患者数の基本式は「エリア人口×受療率÷(科目別競合医院数+1)」です。
ただし、この数字は注意が必要です。一般的な診療圏調査では患者数は均等に按分されている場合が多いのですが、現実では競合の集患力は一定ではありません。
評判の良い医師がいる、最新の医療機器を備えているなど、集患力の強い競合クリニックがある一方、跡継ぎがいなくて閉院予定のクリニックをはじめ集患力の弱い競合も存在するため、数値を鵜呑みにしないことが大切です。

さらに重要なのが将来の人口動態です。
今は人が多くても、10年後に急減するエリアでは長期経営が危ぶまれます。5年後、10年後の増減率を確認することが、長く経営を続ける上で欠かせない視点です。
また、都市計画や開発状況といった外部要因は診療圏調査の結果には含まれにくいものの、経営に大きな影響を与える要素です。周辺の再開発計画、新しい競合施設の予定なども必ず確認してください。

区画の位置:物件の「強さ」を決める最重要項目

エリアに患者がいることが確認できたら、次は区画の位置です。これが最も見落とされやすく、最も影響が大きい要素です。

あるモールで、入口近くの区画と奥の区画を同科で比較したところ、1日の患者数が入口側で70人・奥側で30人という差が出たケースがあります。2倍以上の差が、導線だけで生まれています。

駅から2分の立地であっても大通りから一本路地に入ってしまうと一部の人の目にしかとまらないため認知度が上がりにくく、事前調査で医療ニーズが高いエリアであることがわかっていたとしても、生活動線上から外れると集患が難しくなる可能性があるのは、モール内の区画でも同じことが言えます。

区画を見るときに確認すべきポイントは次の通りです。

  • エントランスから見えるか(視認性)
  • エレベーター・エスカレーターの動線上にあるか
  • 隣接する診療科との相性(後述)
  • 階数(2階以上は視認性と集患に影響)

駐車場導線:郊外型モールでは集患の「入口」

郊外のスーパー併設型モールでは、患者の大半が車で来院します。
車での来院を前提とした立地の場合、駐車場の確保が非常に重要です。
商業施設併設型のケースは判断が難しく、商業施設の利用者と医療モールの利用者の数を読み違え、いつも満車状態になってしまうと、いくら周辺に医療ニーズがあったとしても患者を受け入れることができなくなってしまうことがあります。

駐車場から建物の入口、そして自分のクリニックまでの動線に、どれだけ「自然な流れ」があるかが集患に直結します。繁忙日の実際の混雑状況を現地で確認することも重要です。

薬局の位置:処方患者の動線がそのまま来院導線になる

処方箋を発行する診療科にとって、調剤薬局の位置は特別な意味を持ちます。
薬局に向かう患者の動線上にクリニックがあれば、定期的な再来院の「流れ」が自然に作られます。

利用者の観点からも、同フロアあるいは同建物内に調剤薬局があることで通院の煩わしさが軽減することは明らかです。
逆に薬局が離れた場所にある物件は、処方後の流れが分断されます。薬局との位置関係は、物件選定の段階で必ず地図上で確認しておきましょう。

診療科配置:隣に誰がいるかで患者導線が変わる

例えば糖尿病の治療をしている場合、「糖尿病網膜症」という合併症に罹る患者さんは少なくありません。
医療モール内に眼科があると、すぐに糖尿病網膜症の治療を受けることができます。このように医療モール内のクリニック同士がしっかり連携することで、より質の高い診療を提供することが可能になるという実態があります。

患者の流れを意識した診療科の組み合わせとしては、次のようなパターンがよく見られます。

  • 内科(糖尿病)→眼科(網膜症)
  • 小児科→皮膚科(アトピー・湿疹)
  • 内科→整形外科(高齢者の複数疾患)
  • 耳鼻咽喉科→小児科(子どもの発熱・耳鼻症状)

隣の診療科が患者を送ってくれる可能性があるかどうか。これを入居前に確認することは、集患計画の精度を上げる上で重要な視点です。

視認性:「見えない場所」は存在しないのと同じ

医療施設としての視認性が確保できるかという点です。
生活動線上にあることとも関連しますが、医療施設があるということが外部から確認しやすい立地であることが大切です。通行人流や交通量が多い場所が適しているといえます。看板を設置することも念頭において考える必要があります。

2階や奥区画の場合、モールの共用サインスペースが使えるかどうかを確認してください。
大型商業施設では看板・サイン設置に制約がある場合も多く、入居後に「思ったより目立てない」と気づくケースがあります。
エントランス総合案内板への掲載、エレベーター内のサイン、フロアサインの有無まで、物件内覧時に実物を確認することをお勧めします。

モール全体の評判リスク:入居前に見ておくこと

自分のクリニックがどれだけ良くても、モール全体の評判が患者の来院意欲に影響することがあります。
同モール内に評判の悪いクリニックや調剤薬局が一つでもあると、医療モール自体の評判も低下するので、集患に悪影響をもたらすことがあります。

入居前に、既存クリニックのGoogleマップ口コミ・近隣住民の声を調べておくことは、リスク管理として有効です。
また他院の医師と気が合わずうまくコミュニケーションがとれなかった場合、患者さまの紹介や情報共有といった連携も難しくなることもあります。
可能であれば、既存クリニックの院長と事前に話せる機会を作ることをお勧めします。

物件内覧で確認すべきチェックリスト

以上を踏まえて、物件内覧時に確認すべき項目を整理します。

集患・導線に関わる項目

  • エントランスからの視認性・区画の位置
  • 駐車場から自クリニックまでの動線
  • 薬局との位置関係
  • 隣接診療科の種類と雰囲気

施設・運営に関わる項目

  • 工事区分表の取り寄せ(B工事の範囲の確認)
  • 看板・サインの設置ルール
  • 診療時間・外装に関するモール規定
  • 共益費・管理費の内訳

エリア・将来性に関わる項目

  • 5〜10年後の人口動態
  • 周辺の開発計画・競合施設の予定
  • 核テナント(スーパー等)の契約期間・安定性
  • 既存クリニックの口コミ・評判

まとめ

医療モール物件の本当の「強さ」は、家賃や広さよりも、区画・導線・診療科配置・視認性の組み合わせで決まります。
同じモール内でも、入口区画と奥区画では患者数が2倍以上変わることがある。それは数字が示す事実です。

診療圏調査の数値はあくまで出発点。そこに現地確認・人口動態・将来計画・モールの評判という4つの視点を重ねて初めて、納得のできる物件判断ができます。


私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。
焦らず、ここで少し整理していってください。


この記事の延長にある話を、3つだけ。

次に読むなら、このあたり

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この記事を書いた人

元医療施設設計士/医療事業プランナー

クリニックをはじめとする医療施設の設計を20年以上担当。
小児科・耳鼻咽喉科・皮膚科など、
子どもが通う医療施設の設計に特に力を入れてきた。

現在は設計を離れ、医療系企業の事業プランニングに従事。
「先を不安に思う医師の力に少しでもなれれば」という思いで
このサイトを運営している。

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