「勤務医を続けるか、開業するか」
この問いに、一度は向き合う医師は多いと思います。 先輩が開業したと聞いたとき。 医療モールを通りかかったとき。 ふとした瞬間に、気になり始める。
ただ、この問いは「どちらが得か」という話ではありません。
勤務医と開業医は、収入の構造も、時間の使い方も、リスクの取り方も、根本から違います。
この記事では、その違いを数字と実例を交えて整理します。
収入の構造は、どう違うのか
勤務医の収入は給与です。 厚生労働省の医療経済実態調査(令和7年11月公表)によると、一般病院に勤務する医師の給与・賞与合計は平均約1,480万円。
毎月安定して入り、当直料や各種手当が加わるケースもあります。
開業医の収入は、クリニックの売上から経費を引いたものです。 同調査によると、個人立・外来のみの一般診療所では年間医業収益が約8,800万円、経費が約6,300万円で、損益差額は約2,600万円。
これが開設者の手取りに近い数字です。
数字だけ見ると、開業医のほうが大きく上回ります。
ただし、これは平均値であり、うまくいっているクリニックもそうでないクリニックも含んだ数字です。
ある内科クリニックの院長は、開業2年目に「勤務医時代より手取りが減った」と話していました。 患者数が安定するまでの間も、月約500万円の固定費は変わらず出ていく。
その重さを開業前に感覚として持てていなかった、と言っていました。
働き方は、どう違うのか
勤務医は、病院の方針とシフトの中で動きます。 当直や緊急対応がある分、時間のコントロールは難しい。
ただ、チームで動くため、一人で抱え込む必要がない場面も多くあります。
開業医は、診療時間も休診日も自分で決められます。 「週4日診療、午後は事務と家族の時間」という設計も可能です。
一方で、経営の判断はすべて自分に返ってきます。 スタッフの採用、設備の更新、患者数の変動への対応。
診療以外の仕事が、思っていた以上に多い、と感じる医師は少なくありません。
生活への影響は、どう違うのか
勤務医は、収入が安定している分、生活の見通しが立てやすい。 住宅ローンの審査も通りやすく、家族の生活設計を組みやすいという声もあります。
開業医は、開業直後の数年が最も不安定です。 多くのクリニックで患者数が軌道に乗り始めるのは、開業から1〜2年後と言われています。 その間、運転資金として半年〜1年分の固定費を手元に残しておくことが、気持ちの余裕にもつながります。
ある医師は開業から1年半で患者数が安定し、「あの時期を乗り越えたことで、今は勤務医時代より充実している」と話していました。
ただ同時に、「妻の不安を先に解消できていれば、もう少し楽だったかもしれない」とも言っていました。
生活への影響は、医師本人だけの話ではありません。
どちらが良いか、ではなく「何を大事にするか」
勤務医と開業医は、どちらが優れているという話ではありません。
安定した収入と組織の中での医療を大事にするなら、勤務医という選択は十分に合理的です。 自分の診療スタイルを作り、地域と長く関わりたいなら、開業という形が合うかもしれません。
大切なのは、どちらの構造を自分が選んでいるかを、先に理解しておくことです。 「なんとなく開業した」「流れで続けてしまった」という判断は、あとから必ずどこかで無理が出てきます。
収入でも、自由でもなく、「続けられるか」で考えると、見え方が変わります。
私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。
この記事の延長にある話を、3つだけ。
