事業計画書は、銀行のためじゃない──迷ったときに戻ってこられる「地図」の話

「事業計画書を作りましょう」
開業準備を進めていると、ほとんど必ずこの言葉を聞くことになります。
そのたびに、少し身構えてしまう医師も多いかもしれません。
数字が苦手。
未来なんて予測できない。どうせ計画どおりにはいかない。

そう感じるのも、自然なことです。
ただ、長く現場を見てきて思うのは、事業計画が苦手に感じられる理由は数字そのものではない、ということです。

多くの場合、原因は数字そのものではなく、事業計画の役割を少し誤解したまま向き合っていること。それだけなのだと思います。

目次

なぜ、事業計画書は苦手に感じやすいのか

「当たらない未来」を書かされる感じがする

事業計画書というと、数年先の売上や患者数を細かく数字で書くイメージがあります。
正直なところ、そんな未来が正確に当たることは、ほとんどありません。

そのため『意味があるのかな』『形だけでは』という違和感が生まれやすくなります。

銀行のための書類だと思ってしまう

融資のために必要。提出を求められる。チェックされる。

こうした経験から、
事業計画書=銀行向けの資料
という印象が強くなりがちです。

そうなると、「自分のためのもの」という感覚が、どうしても薄れてしまいます。

事業計画の、本当の役割

未来を当てるためのものではない

事業計画は、未来を正確に予測するためのものではありません。
今どこに立っていて、どの方向に進もうとしているのか。

どの方向に進もうとしているのか——それを自分で確認するためのものです。

迷ったときに戻ってこられる「地図」

事業を始めると、必ず迷う瞬間が出てきます。
・このままでいいのか
・少し無理をしていないか
・当初の考えとズレていないか

そんなときに、「最初は、こう考えていたな」と立ち戻れる場所がある。
それが、事業計画です。

地図があるからといって、必ず同じ道を通る必要はありません。
ただ、戻れる場所がある。
それだけで、気持ちはずいぶん楽になります。

最低限、整理しておきたいポイント

診療の「型」

最初に整理しておきたいのは、売上の数字ではありません。
・一人あたり、どれくらいの時間をかけたいか
・一日に、何人くらい診たいか
・自分が、どこまで関わるか

この「診療の型」が定まらないと、他の数字はなかなか意味を持ちません。

固定費の重さ

次に大切なのは、毎月、確実に出ていくお金です。
家賃。
人件費。
リースやシステム費。

ここでは、正確な金額よりも「自分にとって重いかどうか」という感覚が大切です。

時間の使い方

事業計画には、時間の視点もぜひ入れておきたいところです。
診療時間。
準備や事務作業の時間。
休む時間。

時間を無視した計画は、あとから必ずどこかで無理が出てきます。

外れても意味が残る事業計画の考え方

数字は「仮置き」でいい

事業計画の数字は、正解である必要はありません。
「この前提が変わったら、どう感じるか」を考えるための材料です。

仮置きだと思っておくと、計画は、ずっと扱いやすくなります。

設計や現場と、切り離さない

面積。
動線。
人員配置。
こうした設計上の判断は、そのまま事業計画に影響します。
図面と数字を別々に考えず、ひとつのものとして眺めてみると、計画はぐっと現実に近づきます。
たとえば、広めの待合室を選んだなら、その分の家賃は固定費に反映されます。図面の判断が、そのまま毎月の数字になる。
設計と事業計画は、本来ひとつのものです。

事業計画は、自分を縛るためのものではない

事業計画は、自分を追い込むためのものではありません。
無理をしそうなときに、「それは、最初の前提と違うかもしれない」と気づかせてくれる。
少し立ち止まりたいときに戻ってこられる。

事業計画は、医師が納得して続けるための静かな支えでもあります。


私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。

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この記事を書いた人

元医療施設設計士/医療事業プランナー

クリニックをはじめとする医療施設の設計を20年以上担当。
小児科・耳鼻咽喉科・皮膚科など、
子どもが通う医療施設の設計に特に力を入れてきた。

現在は設計を離れ、医療系企業の事業プランニングに従事。
「先を不安に思う医師の力に少しでもなれれば」という思いで
このサイトを運営している。

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