クリニック開業で失敗する立地

立地は、開業準備の中で最もやり直しがきかない判断です。

内装が気に入らなければ改装できる。スタッフが合わなければ採用し直せる。しかし立地だけは、契約後に変えることができません。開業が失敗する要因を重要なものから並べると、立地の失敗が最も重大で、ここを失敗すると取り返しがつきません。

2024年、診療所の倒産は31件・休廃業は361件。
その背景に、立地の失敗が潜んでいるケースは少なくありません。具体的に、どんな立地が失敗につながるのかを整理します。

目次

失敗パターン① 競合の強さを見誤った

自分と同じ診療科のクリニックが近隣に2件あり、ちょうどその中間地点に開業してしまった、という実例があります。しかもネットで口コミを調べると、その2件のクリニックは評判が高い。
このような状況に陥ってしまったら、もうどうしようもありません。

競合の「存在」だけでなく、「評判・診療年数・患者の定着度」まで確認することが必要です。
近隣に競合がいなくても、開業後に新規参入されるリスクもあります。開業後まもなく、より良い場所に競合クリニックが増えて既存患者数が減少するといった問題が起こると、事業戦略が根本から崩れてしまいます。

確認すべきこと:半径500m・1km圏内の同診療科の数・開業年数・Googleの口コミ評価・推定患者数。開業時点だけでなく、3〜5年後の競合増加リスクまで想定する。

失敗パターン② 生活動線を見誤った

「駅前=人通りが多い=集患しやすい」という思い込みで立地を決め、開業後に患者が集まらない。現場でよく見るパターンです。

あるクリニックは、利用者の多い駅の北側に開業しました。現地を見て「好立地」と判断しましたが、開業後に患者数が伸びませんでした。
詳細な調査をしたところ、地域住民の生活動線は駅の南側に集中しており、南側には大規模な商業施設や住宅地が広がっていたため、北側のクリニックの前を通る人は限られていたことが判明しました。

人通りの多さと、生活動線は別物です。人が「通る」場所と、人が「立ち寄る」場所は異なります。

確認すべきこと:朝・昼・夕方・休日と複数の時間帯に現地を訪問する。スーパー・薬局・保育園など生活施設の位置と、人の流れる方向を自分の目で確かめる。

失敗パターン③ 人口構成を確認しなかった

人口の多さだけを見て立地を決めると、実際の患者層とのミスマッチが起きます。

住宅街での開業であれば夜間人口(居住者数)が重要ですが、オフィス街では昼間人口(就業者数)が患者数に直結します。
高齢者が多ければ慢性疾患に対応する内科や整形外科の需要が高く、子育て世代が多ければ小児科や皮膚科の需要が見込めるなど、ターゲットとする診療科によって着目すべき人口構成は異なります。

小児科を開業したのに、周辺の高齢化が進んでいた。
内科を開業したのに、昼間は閑散とした住宅地だった。
こうしたミスマッチは、事前の調査不足から生まれます。

確認すべきこと:国勢調査・住民基本台帳で年齢構成・昼夜間人口比を確認。5〜10年後の人口推計も必ず見ておく。

失敗パターン④ 「思い入れ」で場所を決めた

実家の近くに空きテナントが出たタイミングで、不動産会社から「他の客で決まりそうなので今すぐ契約しないと」と言われ、慌てて契約書にサインした医師がいます。

「地元で開業したい」「縁のある土地で」という気持ちは自然なものです。
ただ、その感情が診療圏調査を省略させる引き金になることがあります。
焦りと思い入れが重なったとき、立地の判断は最も狂いやすくなります。

不動産は「今決めないと」という言葉で急かされることがあります。それが本当に急ぐ理由かどうかを冷静に判断する時間を、必ず持ってください。

失敗パターン⑤ 診療科との相性を考えなかった

同じ「駅前」でも、診療科によって向き不向きがあります。

内科は開業医の数が最も多い診療科であり、競合が激しい。特に都市部では徒歩圏内に複数の内科クリニックが存在することも珍しくありません。
差別化なく一般内科として開業した場合、患者を獲得できないリスクがあります。
保険診療中心の内科では、1日50人以上の患者数が収益確保の目安になるケースも多く、立地の集患力が直接経営に影響します。

一方で整形外科・眼科は車でのアクセスが重要で、駐車場の確保が必須です。
心療内科・精神科はプライバシーへの配慮から、人目につきすぎる立地よりも静かな場所の方が向くケースもあります。
「診療科が患者に何を求めているか」を起点に立地を考えることが必要です。

立地の失敗が取り返しのつかない理由

立地を変えることは、実質的に廃業して再開業することを意味します。開業資金5,000万〜1億円をかけて設計・内装・設備を整えた後では、「場所を変える」という選択肢はほぼありません。

苦しい開業医に甘い言葉ですり寄り、資金提供し、大きな医療法人の傘下に組み込まれて事実上の勤務医に戻ってしまうパターンもあります。
立地の失敗は、医師としてのキャリアそのものに影響します。

診療圏調査は「やること」が目的ではない

診療圏調査は、調査を行うこと自体が目的ではありません。その結果をどう読み取り、どう活かすかによって、開業後の成果は大きく変わります。

人口・競合・動線・年齢構成。これらを丁寧に調べた上で「この場所でなぜ患者が来るのか」を自分の言葉で説明できるようになること。それが、立地選定の本当のゴールです。


私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。

この記事の延長にある話を、3つだけ。

次に読むなら、このあたり

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この記事を書いた人

元医療施設設計士/医療事業プランナー

クリニックをはじめとする医療施設の設計を20年以上担当。
小児科・耳鼻咽喉科・皮膚科など、
子どもが通う医療施設の設計に特に力を入れてきた。

現在は設計を離れ、医療系企業の事業プランニングに従事。
「先を不安に思う医師の力に少しでもなれれば」という思いで
このサイトを運営している。

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