クリニック開業について調べていると、成功例の話を目にすることが多いかもしれません。 一方で、「開業で失敗した」という話は、あまり表に出ないこともあります。
2024年の診療所の倒産件数は31件と過去最多、休廃業・解散は361件と前年比10.4%増(東京商工リサーチ)。
倒産増加の背景には、コロナ関連融資の返済集中・医療材料や人件費の高騰・2024年診療報酬の実質マイナス改定など、構造的な要因が重なっています。
ただし、これらのデータが示すのは「失敗が多い」という話ではありません。 「準備の質が、結果の差になる」ということです。
この記事では、クリニック開業で失敗につながりやすいケースを、構造的な視点で整理します。
失敗パターン1|判断の順番が逆だった
開業の失敗で最も多く見られるのは、個別の判断ミスよりも「判断の順番が逆だった」ことです。
物件を先に決めてしまう。
図面が固まる。
そのあとで「本当にこれでよかったのか」と悩む。
一度、契約や設計が動き出すと判断は一気に戻りにくくなります。
「今決めないと逃します」という言葉に急かされて決断した立地が、あとから問題になるケースを何度も見てきました。
開業準備の標準的なスケジュールは、決意から開業まで12〜18ヶ月。
この期間を焦って短縮しようとした結果、物件選定が不十分になったり、スタッフが揃わないまま開業したりすることがあります。
「決断力よりも、順番の設計が大切」。 開業の失敗を防ぐ上で、最も重要な視点のひとつです。
失敗パターン2|立地の「感覚」と「実態」がズレていた
立地の失敗は、数字ではなく感覚で決めてしまったときに起きやすいです。
人通りが多い。
駅から近い。
雰囲気が良い。
これらはすべて、患者が来る理由にはなりません。
「患者数が多そう」と「患者が来る立地」は、別の話です。
ある内科クリニックは、駅前の好立地で開業しました。
家賃は月80万円。開業から1年、患者数は想定の半分以下でした。 その地域の昼間人口は多かったが、夜は人が少なく、高齢者が少ない地域でした。
内科の患者層と合っていなかったのです。
立地は後から変えられません。 「なんとなく良さそう」で決めた立地は、後から取り返しがつかない。 現場で見てきた現実です。
失敗パターン3|固定費の重さを感覚として持っていなかった
固定費の問題は、開業前には見えにくく、開業後に初めて実感するケースが多いです。
一般的なクリニックの月間固定費は175〜310万円前後。 売上が少ない月でも、この金額は変わらず出ていきます。
ある医師は「月の売上が300万円でも、固定費を引くと手元にほとんど残らなかった」と話していました。
患者数が想定の半分だった開業1年目に、固定費の重さを初めて体感したと言います。
特に、リース契約は5〜7年が一般的で途中解約には違約金が発生することもあります。
一度決めた固定費は、下げることがとても難しい。
「払えるか」ではなく「患者が少ない月でも耐えられるか」で固定費を設計することが、失敗を防ぐ核心です。
失敗パターン4|患者数の想定が楽観的すぎた
開業前の患者数予測は、どうしても楽観的になりやすいです。
「この立地なら1日50人は来るはず」という前提で設計した固定費が、実際には1日20人しか来なかったとき、収支は一気に崩れます。
多くのクリニックで患者数が軌道に乗り始めるのは、開業から1〜2年後です。
その間も固定費は変わらず出ていくため、半年〜1年分の運転資金を確保しておくことが大切です。
患者数の予測は「期待値」ではなく「下振れした場合でも耐えられるか」で考える。
「この前提が崩れたらどう感じるか」を開業前に想像しておくことが、最大のリスク管理です。
失敗パターン5|競合を「数」でしか見ていなかった
「近くに同じ診療科が少ない」という理由だけで立地を選ぶと、失敗することがあります。
競合が少ない地域は、医療需要そのものが薄いことがあるからです。 逆に競合が多くても、特定の患者層が取り切れていない地域では成立の余地があります。
見るべきは競合の「数」ではなく「強さと空白」です。
近隣クリニックが「待ち時間が長い」「予約が取りにくい」という評判なら、そこに入る余地があります。
競合分析は、現地で自分の目で確かめることが大切です。
口コミ・外観・動線・混み方。数字だけでは見えない情報が、現地にあります。
失敗パターン6|スタッフ問題を軽く見ていた
開業後に経営が苦しくなる原因として、スタッフ問題は見落とされやすいテーマです。
看護師不足は開業クリニックの最重要課題のひとつとされており、求人開始は開業6ヶ月前からが目安と言われています。
スタッフが揃わないまま開業すると、院長が診療以外の業務を抱えることになります。
ある医師は、開業当初スタッフが1人しか確保できず、受付・会計・診療補助を自分でこなしながら診療を続けました。 半年で体調を崩したと言います。
「採用できない場合の代替体制」も、開業前に設計しておくことが大切です。
失敗を防ぐために、今できること
失敗のリスクを完全になくすことはできません。
ただし、次の4つを開業前に言葉にしておくことで、リスクは大きく減らせます。
立地を、患者の立場で実際に歩いて確認したか。
固定費を、患者が少ない月でも耐えられる水準に設定できているか。
患者数の予測を、下振れした場合でも耐えられる前提で考えているか。
スタッフ採用の計画と、揃わなかった場合の代替策があるか。
判断の順番を整えること。 それが、開業の失敗を防ぐ最大の準備です。
まとめ
クリニック開業で失敗するケースには、共通した構造があります。
判断の順番が逆だった。
立地の感覚と実態がズレていた。
固定費の重さを感覚として持っていなかった。
患者数の想定が楽観的すぎた。
競合を数でしか見ていなかった。
スタッフ問題を軽く見ていた。
どれも、開業前に整理できていれば防げたことです。 「準備が足りなかった」と後から思わないために、今ここで整理しておくことが大切です。
私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。
この記事の延長にある話を、3つだけ。
