「この物件、立地はいいんですが、家賃が少し高くて」
物件探しをしている医師から、よく聞く言葉です。
立地が良い場所ほど家賃は高くなる。それは当然です。
ただ、長く現場を見てきて感じるのは、「高い・安い」より先に考えるべきことがあるということです。
それは、「この家賃なら、自分は続けられるか」という感覚です。
この記事では、クリニックの家賃を考えるときの基本的な視点を、数字を交えながら整理します。
家賃は「払えるか」より「耐えられるか」で考える
家賃は固定費の中でも特に厄介な存在です。 売上が多くても少なくても、毎月同じ額が出ていきます。
しかも一度契約すると、途中で下げることはほぼできません。
「払えるかどうか」ではなく、「患者が少ない月でも耐えられるか」で考えること。
これが、家賃判断の基本的な視点です。
家賃の目安を数字で考える
売上に対する家賃の比率
一般的に、クリニックの家賃は月間売上の5〜10%以内が目安とされています。
厚生労働省の医療経済実態調査(令和7年11月公表)によると、個人立・外来のみの一般診療所の年間医業収益は約8,800万円、月換算で約730万円。
この5〜10%であれば、家賃の目安は月36〜73万円前後ということになります。
ただしこれは平均値であり、開業直後は売上がこの水準に達していないことも多い。
開業初年度の売上を保守的に見積もった上で、その5〜10%に収まるかどうかを確認することが大切です。
診療科別に変わる現実
診療科によって、売上の構造は大きく違います。
内科は患者単価が比較的低く、売上を積み上げるには一定の患者数が必要です。
皮膚科・眼科は自由診療を組み合わせることで単価を上げやすい反面、集患に時間がかかることもある。
整形外科はリハビリ通院により来院頻度が高く、売上が安定しやすい傾向があります。
「自分の診療科で、月どのくらいの売上が現実的か」を先に考えると、家賃の上限が自然と見えてきます。
家賃以外の固定費も合わせて見る
家賃だけを単独で見ていると、判断を誤ることがあります。 家賃は固定費の一部に過ぎないからです。
一般的なクリニックの月間固定費の内訳はおおよそこのようになります。
家賃:30〜80万円(立地・規模による)
人件費:100〜150万円(スタッフ3〜5名の場合)
医療機器リース:20〜40万円
システム・通信費:5〜10万円
その他経費:20〜30万円
合計すると、月175〜310万円前後が固定費の目安です。
ある医師は「家賃は抑えたつもりだったのに、人件費とリースを合わせると思った以上に重かった」と話していました。
家賃の判断は、固定費全体の中で見ること。 家賃だけを切り取って考えると、全体像を見誤ります。
立地と家賃のバランスをどう考えるか
立地が良い場所ほど家賃は高くなります。 ただし、「高い家賃でも患者が増えれば成立する」という考え方には、注意が必要です。
患者が増えることを前提に家賃を設定すると、増えなかったときの負担が一気に重くなります。
開業から軌道に乗るまでの1〜2年間、患者数が少ない状態でも耐えられるかどうか。 その視点で家賃を決めると、判断がブレにくくなります。
逆に、家賃を抑えた立地でも、動線・視認性・患者層との相性が良ければ成立するケースは多くあります。
「高い家賃を払えば安心」ではなく、「この家賃で続けられるか」が判断の軸です。
開業前に確認しておきたいこと
家賃を決める前に、自分に問いかけておきたいことがあります。
患者数が予測の半分だった月でも、固定費を払えるか。
体調を崩して1ヶ月休んでも、資金が持つか。
家賃を払いながら、借入の返済もできる売上水準はどのくらいか。
この感覚を言葉にしておくだけで、物件を見るときの判断が変わります。
数字を見るのではなく、自分がどう感じるかを確認すること。 それが、家賃判断の本質です。
まとめ
家賃はクリニック経営における重要な固定費です。 ただし、判断の軸は「払えるか」ではなく「患者が少ない時期でも耐えられるか」です。
売上の5〜10%という目安を参考にしながら、固定費全体の中で家賃を位置づける。
その視点が、開業後の気持ちの余裕を決めます。
私自身、多くの医師の開業に立ち会ってきました。うまくいった開業に共通していたのは、スピードではなく、納得感でした。焦らず、ここで少し整理していってください。
この記事の延長にある話を、3つだけ。
